大雨で逃げない人を笑えない——「まだ大丈夫」をつくる2つの脳のクセ

心理学

毎年、大雨のニュースで「なんで逃げんかったと?」と思う瞬間があります。家が水に浸かっとるのに、屋根の上で救助を待つ人。外から見たら、もっと早よ動けばよかったのに、と言いたくなる。

でも、これ、正直あんまり笑えんのです。私もあなたも、たぶん毎日のように「小さく逃げ遅れて」生きとるので。

今日は、人を「まだ大丈夫」に縛りつける2つの脳のクセの話をします。災害の話に見えて、わりと日常の話です。

「まだ大丈夫」をつくる、正常性バイアス

ひとつめは正常性バイアス。異常なことが起きても「これは正常の範囲」「自分は大丈夫」と、危険を実際より小さく見積もってしまう脳のクセです。

これ、欠陥みたいに聞こえますけど、本来はちゃんと役に立つ機能なんですよね。物音がするたび、空が曇るたびにパニックになっていたら、日常生活なんて送れません。脳は「だいたいのことは大したことない」と処理して、平常心を保ってくれている。なかなか優秀な機能です。

問題は、本物の危険のときも、同じ処理をしてしまうこと。

火災報知器が鳴っても「どうせ誤作動でしょ」。スマホの容量警告を何回も無視する。体調が悪いのに「ただの疲れ」で済ます。あれ全部、同じクセの顔です。「まさか本物とは」と思っているうちに初動が遅れる。

「動かない」を選ばせる、現状維持バイアス

ふたつめは現状維持バイアス。人は「今のまま」を実際以上に良く見積もって、変化を避ける——という行動経済学の概念です(サミュエルソンとゼックハウザーが1988年に名前をつけました)。

避難って、要するに「大きな変化」なんですよね。慣れた家を出て、知らない場所へ動く。脳からすると、これはなかなかのコスト。だから「とどまる」をつい選びたがる。

日常版もわかりやすいです。使ってないサブスク、なぜか解約してない。「転職したい」と3年言いながら、今の会社にいる。メニューを開いて、結局いつものやつ。

損やと分かっとっても、変える一手間が越えられん。これ、意志が弱いんじゃなくて、脳のデフォルト設定が「現状維持」になっとうだけなんです。ざっくりいうと「めんどう」なんですね。

2つが重なると、人は本当に動けなくなる

で、ここからが本題。災害のときに何が起きているかというと、この2つが同時に効いてるんです。

正常性バイアスが「まだ大丈夫」と危険を値引きして、現状維持バイアスが「動くのはだるい」と背中を押さえる。片方だけでも足は止まるのに、両方そろうと、もう動けない。「まだ大丈夫だし、もう少し様子を見てから」——この一文の中に、2つのバイアスがきれいに同居しています。

だから「逃げなかった人」は、特別に鈍いわけでも、危機感がないわけでもない。むしろ、誰の脳にも標準装備された機能が、最悪のタイミングで全部正しく作動した結果なんですよね。なかなか怖い話です。

勝てないけど、気づける

じゃあどうするか。残念ながら、この2つのクセを根性で消すことはできません。脳の標準機能なので。

できるのは、「あ、今これ働いとるな」と名前で気づくことくらい。「まだ大丈夫」と思った瞬間に、それ正常性バイアスかも、と一回ツッコむ。「めんどくさい」で止まったときに、現状維持バイアスやな、と一回笑う。それだけで、ベタ凪の状態より半歩は動けます。

避難の話に限りません。解約しそびれたサブスク、先延ばしにした再検査、3年言い続けている転職。全部、同じ2つのクセが裏で手を組んどります。

「まだ大丈夫」は、たぶん人生で一番よく使う呪文です。便利やからこそ、たまに疑うくらいでちょうどいい。ちなみに私は、これ書きながらサブスクを1個解約しました。半歩です。

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